コラム
5.32025
遺言書と生命保険について

遺言書と生命保険に関する注意点
遺言書を作成する際に、生命保険との関係についても考慮することが必要となります。生命保険は、相続財産とは異なる扱いを受けるため、遺言書で指定した相続人に影響を与えることはありません。遺言書において、遺産の分割や相続人への分配を明確にすることができますが、生命保険金に関しては少し異なります。生命保険金が遺言書とどのように関係しているのか、注意点をいくつかご紹介します。
1. 生命保険金の受取人
生命保険金は、保険契約者が死亡した際に指定された受取人に支払われる金銭であり、原則としてその受取人固有の財産として扱われます。そのため、生命保険金は遺産分割の対象にはなりません。つまり、遺言書に記載した内容にかかわらず、受取人に直接支払われることになります。この特性により、遺言書で生命保険金の分配を指示しても、効力は発生しないため注意が必要です。
2. 受取人の変更は遺言書ではなく保険会社へ
遺言書で「生命保険金の受取人を指定する」と記載することはできません。厳密に言うと、形式上は可能でも効力がありません。例えば、遺言書に「保険金は長男に渡す」と書かれていても、保険契約で次男が受取人に指定されていれば、実際には次男が保険金を受け取ることになります。
そのため、保険金の受取人を変更する場合、遺言書ではなく、直接保険会社と契約を変更する手続きを行う必要があります。受取人の変更を行うためには、保険会社に所定の手続きを行い、新たな受取人を設定することが求められます。この点を理解していないと、遺言書の内容に基づいて生命保険金を配分しようとすることが無効となる可能性があります。
3. 生命保険金と相続財産
生命保険金は、受取人固有の財産であるため、相続財産(遺産)には含まれません。しかし、生命保険金の額が相当高額であるような場合、他の相続人から不満が出る可能性があります。
原則的に、「生命保険金は遺留分の対象外」ですが、例外的に「保険金額が遺産総額と比べて著しく高額で、他の相続人との公平を著しく欠く場合など」は、遺留分の対象となる場合もあるため、遺言書の作成時に生命保険金を含めた全体の財産分配をしっかりと考慮し、必要に応じて保険契約を見直すことも大切です。
そのようなリスクも考慮しておかなければなりません。
4. 生命保険と遺言書の調整方法
生命保険と遺言書の内容が矛盾しないようにするためには、現在の保険契約の受取人を確認し、遺言書の内容と照らし合わせておくことが大切です。仮に遺言書で特定の相続人に多くの財産を与えるよう記載している場合、そのバランスを取るために、他の相続人を保険金の受取人に指定するなど、事前に調整することも有効な方法です。
5. 法人が契約者の場合の注意点
生命保険の契約者が法人である場合、その保険契約は「会社の資産」に該当します。たとえば、社長が被保険者で会社が保険料を支払い、受取人が会社である場合、死亡保険金は会社の資産となります。そのため、遺言書で個人の相続人にその保険金を分配しようとしても、原則として効力はありません。また、会社から遺族に死亡退職金や弔慰金などの名目で金銭が支払われるケースもありますが、これも法人と遺族との関係性に基づく処理が必要です。法人契約の保険については、個人の遺言とは切り離して、税務や法務の観点からも慎重に整理する必要があります。
まとめ
生命保険金は遺言書では自由に分配することができないため、遺言書を作成する際に必ず生命保険契約も確認することが重要です。受取人の変更は保険会社との手続きを通じて行う必要があります。また、遺言書と生命保険金の整合性を保つことで、相続人間での不公平を避けることができます。生命保険金は、原則的に遺産分割協議の対象にはならないが、遺留分侵害の対象となる可能性があるため、遺言書を作成する際は、生命保険金についても考慮した上で、専門家に相談しながら作成することをお勧めします。
※本記事は一般的な法制度・生命保険の取り扱いについての解説を目的としており、個別具体的な事案に対する法的アドバイスを行うものではありません。実際の手続きや判断については、専門家にご相談ください。